練馬区大泉在住の宇宙物理学者、佐藤勝彦さんは「宇宙の始まり」に関する画期的な理論を唱えた世界的な科学者。どんな子ども時代を過ごしたのか、科学とは何か、長年住む大泉学園への思いなどの話を伺いました。
※この記事は、「月刊Kacce」2021年4月号の特集記事を再編したものです。
■佐藤勝彦さんプロフィール 1945年、香川県坂出市生まれ。東京大学名誉教授。インフレーション理論に代表される初期宇宙の研究の功績は世界的に知られる。『眠れなくなる宇宙のはなし』(宝島社)や『科学者になりたい君へ』(河出書房新社)など、一般向け・子ども向けの著書も多数。
湯川秀樹にあこがれた少年時代
子どもの頃から「これはどうなっているのだろう?」「なぜだろう?」と考え、星降る夜空を見上げては「宇宙の果てはどうなっているのかな?」と思っていたという佐藤さん。 「わからないことがあると先生を質問攻めにしていたので、大人になって先生に再会した時、『君はしつこかったね』と言われました(笑)」
科学教育に熱心な父親のおかげで子ども向けの科学雑誌を読み、ラジオやテレビまで自作していたとのこと。当時流行したアマチュア無線にも熱中し、中学生で無線技士の資格を取得したというからオドロキです!
そんな佐藤さんの憧れの人は、日本人で初めてノーベル賞(物理学賞)を受賞した湯川秀樹さん。伝記を読んで自分も同じようになりたいと物理学者を志し、湯川秀樹さんが教鞭を執っていた京都大学に進学。4年生の時に初めて授業を受け、難解ながらもカリスマ性を感じる講義に感動したそうです。
宇宙の始まりを研究
その湯川秀樹さんの弟子である宇宙物理学者の林忠四郎さんの研究室に入り、宇宙の研究を始めた佐藤さん。博士号を取ったものの、大学教員の職を得られず、3年半もの間、無給の研究員を続けました。その苦しい時代を支えてくれたのは、大学院生時代に恋愛結婚した奥様の昌子さんでした。
ようやく京都大学で職を得てからは、いっそう研究にまい進するように。33才の時、デンマークの首都コペンハーゲンにある有名な研究所に1年間、客員教授として招かれました。
「世界中から集まった同世代の優秀な研究者たちと、毎日議論した楽しい日々は今でも良い思い出です。そして、この地でまとめ上げたのが、のちに宇宙の始まりに関する有力説として支持される『インフレーション理論』です」
科学者は世界中の研究者たちと交流し、切磋琢磨しながら研究をします。そんななかで出会った“生涯の友”の1人が、世界的に有名な理論物理学者のホーキング博士(故人)でした。
国際会議で意気投合してからは、佐藤さんの招きで、東京大学での国際会議や一般向けの講演会のために何度も来日し、家族ぐるみでの交流が約30年続いたそうです。
大泉学園は「第二の故郷」
1982年に佐藤さんは東京大学に籍を移し、宇宙の研究を継続。大泉学園には1985年に引っ越してきて以来、もう36年住んでいることになります。
「自宅近くには武蔵野の面影が残る『西本村憩いの森』があり、よく散歩しています。周辺には農地もまだ残っているので、わが家で食べる野菜のほとんどは、農家の直売所で購入した新鮮なものなんですよ」
子どもたちは地元の小学校出身。佐藤さんにとって、大泉学園はまさに「第二の故郷」なのです。
科学研究を支える「知る喜び」
子ども向けの講演会で佐藤さんがいつも伝えるメッセージは、「いろんなことを『ふしぎだな』と思ってほしい」ということ。
「私たちの身の回りには、ふしぎがあふれています。宇宙の謎、自然の謎、そして人間の謎。それらに興味を持ち、質問したり、調べたりして、『なるほど、わかったぞ! おもしろいな、もっと知りたいな』と思うことが科学の原点なのです」
宇宙に関する科学研究の成果は、人間の生活に直接役立つことはありません。でも本来、科学は人間の「知る喜び」の上に成り立つものだと佐藤さんは力説します。そして得られた知識は、いつか生活に役立つ技術に結びついたり、私たちの自然観や人間観に影響を与えて「文化」をつくる礎になったりするのです。
これからも科学や科学者の応援団であり続けたいという佐藤さん。みなさんもぜひ、科学に親しんでみませんか?
著書の『科学者になりたい君へ』が課題図書に選ばれた!
佐藤勝彦さんは多くの著書を出していますが、その中の『科学者になりたい君へ』(河出書房新社)が、2021年度「第67回青少年読書感想文全国コンクール」の課題図書(高等学校の部)の1冊に選ばれました。
選ばれた3冊に関するクイズに答え、全問正解すると抽選でオリジナル図書カードがプレゼントされるそう。誰でも応募できるので、ぜひチャレンジしてみてください! 2021年8月31日まで!